詩 考 索 吾ー MY POETRY52


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詩52 丑三つ時にでてきた詩2

bysos-ei  on2/22 01:10 2010

母はいつも薔薇園にいるのです。私の着せ替え人形のように、いつも私の思う通りの服を着て私を待っていてくれるのです。淡紅色のルージュの間からこぼれる柔らかい吐息のような微かな光---お母さん、私はこの光のおかげで私自身を見つめ続けることができるのです。小学校への入学式の時だったろうか。私はその母に右手をひかれ、そして左手は祖母にひかれていた。私は二人の間をまるでブランコのように揺れるように歩いていた。何組もの親子が、いかにも嬉しそうに歩いてゆく。近所の子供達と顔を合わすと、私よりも早く、祖母が声をかける。すると、子供達はいつも一様に照れくさそうに笑う。母親達は祖母におもむろに一礼し、母を横目で見ながら、何故か私に憐れみを浮かべてお愛想を言った。そんな時の悲しそうな母の顔が今でも忘れられない。母は誰からも忘れられているよに思えた。そんな時、母はいつもルノアールの描いた薔薇園の中にそ〜っと、霧のようにかすみながら、微笑を浮かべて入ってゆく。そして私の方を振り返って、何とも言えない寂しそうな顔をして、そのまま真っすぐ園の奥深くへゆっくりと歩んでいった。私は母を追って足を速める。もう少しで追いつこうとするところで、母は急に振り向いて「・・・大きくなったわねぇ・・・」久しぶりにでも見るように私をしげしげと眺めた。ルージュの間からこぼれ出る光は、いつものように穏やかで優しく思えたが、その目は私の内部に住む永遠を見ているように不思議な細波で溢れていた。私は何故かその時、母の、母自身が持っている寂しさなのか・・それとも私の内部に潜む寂しさなのか、奇妙な感情に身震いしながら母に縋りついた。母の温もりを感じながら、どれくらい歩いたろうか。赤い薔薇、黄色、橙色、ミルキーな蒼い薔薇さえも・・色とりどりの霧の中の花びら・・。薔薇園を突き抜けて歩いている自分に気付いたのは、霧が嘘のように晴れた小路を独りで歩いている自分を見つけた時だった。(お母さん、どこへ行ったの・・)自分の描いた絵の中の薔薇園に至る道---今日もまたこの道を歩きながら、私は呟きに似た感情にひたっていた。中学二年の私が、覚えていた最後の母の姿。あの薔薇園の母の実感。嵐の朝、園の薔薇の全てが、花びらの全てが、風にあおられて花吹雪となったあの朝---母も無数の花びらとなって舞い去ったのだろうか。(そう言えば、この小路はいつか通ったことがある)嘗て、母が一人で泣いていたのを見たことがある。小さくてよく聞こえなかったが、薔薇のざわめきの中に「お母さん・・お母さん・・」そう言っているのが幽かに聞こえたような。その時、後ろからやってきたのは、母ではなく、制服の女子中学生だった。「お母さん、お母さん・・・どうしたのこんな所で」中学生は私に手を差し伸べて、霧の中を歩き始めた。私は軽い眩暈をこらえながら、ゆっくりと薔薇園に続く道へ歩き始めている。女の子の手をしっかりと握り締めて・・。薔薇が舞う。薔薇が散る---私が今予感しているものの正体は一体何なのか。それでも私は、ただこのまま歩いていかなければならない、何故だか、結論だけが先行している。

 

 

 

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