by:sos-ei on:3/2 16:21 2010
俺は情けをかけてやったことが一度だけある。
極悪人だった。
だが、死刑にはならず無期懲役となりそのまま老いた。
老いて認知症となったようだ。
俺が訪れた時には、何かひとりごとを言っているようだった。
子供の頃にいじめられたことでも思い出していたのだろうか。
が、いきなり両の眼を見開いて俺の姿を見るなり笑いころげやがった。
そして、「どうやったらお前のようになれるんだい」とぬかしやがる。
「きさま、おれの姿がみえるのか」と訊ねたら、
「ああ、ぼけたおかげでな」と答えやがった。
そして続けた。「ずいぶん忙しそうじゃないか。大変な仕事なんだろう、俺と代ってやろうか。俺はここで眠っているだけだからラクチンだぞ」と。
で、俺が今はこのベッドを占領してるってわけだ。
あいつが、神の名のもとに人殺しをやってくれている間は、ここで楽ができるというわけさ。
この蓄積疲労も頷けるというものさ。なにせ、俺の仕事は生まれてきた人間の数だけ仕事があるわけだからな。
ハローワークに通いづめのお前達には、俺の気持ちなんぞは解らないだろうけどな。
少子化だって俺にとっちゃ大賛成さ。
ところで、俺が貸してやった仕事着を纏って、あいつがここへやってきたときにゃ、俺はいったいどうなるんだろうな?
なにしろ、あいつは大嘘つきの大悪党なのだから。