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不幸な男 (丑三つ時にでてきた話)

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bysos-ei  on3/5 03:17 2010

昔、ある所に目が見えない、口が利けない、耳が聞こえないヘレンケラーのようなおじさんが住んでいました。おじさんは思いました。「わしはひょっとしたら不幸かもしれん。」すると、おじさんは大変不幸になりました。
「なあ、涼子、お前は少しも変らんのう。結婚して何年も経つというのに、このモチハダといい、この膚の薫りといい・・。きっとお前の声はさぞ美しいことじゃろう。姿はきっとどこかのお姫様のようであるに違いない。じゃが、わしには何も見えんし、聞こえん。生きとっても面白くない。わしは不幸じゃ。」と、おじさんは妻に手話で話しました。
妻は夫が可哀想になったので、神様にお祈りしました。
「夫をどうか不幸からお救い下さいますように。」
すると神様が妻の涼子の前に現れました。
「余はアンタのためなら一応なんでもきいてやるつもりじゃが、余の辞書には不幸という文字がない。なにせ、不幸というのは悪魔の領分じゃでのう。ほいじゃから、わしには不幸の意味が解らんのじゃ。解らんけりゃあ、手のうちようがない。」そう言うと神様はすぐに消えてしまいました。
涼子はもう一度手を合わせて神様にお祈りしました。
「神様、どうか夫の耳が聞こえるようになりますように。」
「なんじゃ、なんじゃ涼子ちゃん、はじめっからそう言ってくれればいいのに。お安いご用だ。」神様は耳掻きで寝ている夫の耳から大きな耳クソを取り出してやりました。
おじさんは妻の涼子の歌声を聞いてびっくりして目を醒ましました。
「ああ、なんて素晴らしい声だろう。やはりお前は世界一だ。」でも、その後、おじさんは淋しそうに言いました。
「わしは口が利けんから、お前と一緒に歌うことができん。わしは不幸じゃ。」
すると神様がおじさんの前にすぐに現れました。
「お主は何をブツブツ言うちょるんじゃ。余はアフターケアは欠かしたことはない。その証拠にお主はブツブツと口を利いとるじゃあないか。ええかげんにせいよ。」と言うと神様はスーッと消えました。
おじさんは、悪気はなかったのだけれども、なんとなく神様の好意を蔑ろにしたような気がして申し訳ないような気がしました。
それで、おじさんはしばらくの間、涼子と一緒に歌って楽しい日々を過ごしましたが、歌う度に涼子の姿を見たくてなりませんでした。
「私は世界一の美女を妻に持ちながら、その姿をたった一目見ることもできません。私は世界一不幸な男です。神様どうか私の目を見えるようにして下さい。」男は涙ながらに神様にお祈りしました。
神様はアクビをしながら出てきました。
「お前さんは、ホンマに注文が多いおじさんじゃのう。まあええ、涼子ちゃんさえよけりゃあ、もう一度だけ願いを聞いてやろう。」
涼子をチラリと見ると、うなずいたので神様は、おじさんの目蓋に鍵をつっ込んで開けてやりました。
おじさんは闇の世界から解放され、ついに光の世界の人となったのでした。
が、光は悪魔の世界に直進する物理現象であることをおじさんは知ったのでありました。
「涼子、わしはお前なんか見たくもない。子供が欲しいなら、さっさと正親のとこでもどこへでも行ってしまえ!!

 

 

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