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高齢化社会以後

bysos-ei  on7/3 21:30 2010

 

 

年をとった。夢も希望もなくなった。いや、そうでもな いぞ。夢はかろうじて残っている。寝て見るやつにかぎ るけどな。年寄りにはちょうどよい。寝たきり老人にな っても退屈の心配はないからな。だが、一つ困ったこと がある。夢はこちらからは選択できない。悪夢ってやつ があるからな。そうだ、バクを飼おう。あいつを一匹、 夢の中に飼っていれば安心だ。悪い夢はすべて喰ってく れるはずだ。と、思ったがどこのペットショップにも売 っていない。仕方なく知り合いが経営している動物園で 、バクではないが、要らなくなったアリクイを一匹譲っ てもらった。こいつも相当の年寄りでいつも涎を垂らし てやがる。こいつの寿命もおれとどっこいどっこいだな 。先ずはこいつに睡眠薬を飲ませて眠らせる。それから 、おれが飲むのだ。アリクイのやつ寝こけやがった。い いぞ、おれも眠くなってきた。今だ!!アリクイのケツを このベルトで思いっきり打ってやった。そうら、思い通 りだ。慌てておれの夢の中へ入り込んできやがった。斯 くして、夢の中に似非バク(アリクイ)を飼うことには 成功したのだが、この年寄りは少々認知症の気があるよ うだ。良い夢も悪い夢もみんな喰っちまう。だから、お れは寝ていても起きていても何時も退屈で退屈で仕方が ない。と、そんな時、何処からか、朗報が飛び込んでき た。不老不死の薬が開発され実用化が決まったのだ。市 役所で手続きをすませると、俺はすぐ保健所で注射をし てもらった。人間の命なんてものは訳の解らんものには 違いないが、案外簡単なものだなと思ってしまう。なん だ、なんだ、マスコミはまだそんなことばかり報道して いるのか。なになに、この注射は一生に一度しか受けら れない?そうか、何度注射しても害があるわけではない が、最初に受けた注射の効果しかないのか。なるほど。 赤ん坊に注射したら赤ん坊のままで一生暮らさなければ ならない。そういうことになるな。だから、20歳に達 した者のみに自らの注射の時期を決定することができる 。ふむふむ、それも一理あるな。だが、18歳の時が一 番可愛い女性もいるはずだ。20歳になってしまってか らでは手遅れの場合はないだろうか?まあ、そんなこと は小さなことだ。んんん・・そうだったのか。早い者勝 ちだと聞いたので、急いで注射してもらったのだが・・ 。つまり、科学技術には限界があって、不老不死の製剤 はできても若返りの薬は永遠に不能だということが解明 された、だと。と言うことは、おれは一生、今の状態、 このヨボヨボのままで暮らさなければならないってこと かよ。”一生”と言う言葉さえも死語になっちまったの かよ。不老不死、つまり”死”の選択権も永遠に失った まま、この不治の退屈、永遠の退屈が、あの注射一本で 約束されたということになるわけだ。マスコミの騒音が 、今もこの俺の老いた内耳に反響して眠れやしない---みなさん、科学技術の発展は、そして科学の平和利用の 成果には素晴らしいものがあります。何十年も連続で続 いていた我が国の3万人もの自殺者を、一瞬にしてゼロ にしてしまったのですから。我々は死というものから解 放されました。人間の命は水のようなものに化したので す。斬っても斬っても瞬時に命を繋ぎとめる永遠の有機 体となったのです。首つり自殺などありません。瞬時に 蘇生しますから。バラバラ殺人なんてあり得ません。す ぐに再生しちゃいますからね。今や科学は人類から犯罪 を遠ざけました。真の幸福をもたらすことができたので す。

 

 

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